ストラグル 〜struggle〜

第二部 スズリ〜suzuri〜
著者:shauna


 ジュリオはいつもより張り切っていた。
 当然だ。
 こんな本格的な戦闘は何年振りだろう。
 エーフェが無くなってからスペリオルの城下街でバー「蒼猫亭」を始めてから早6年。
楽しい毎日だったが、どこか退屈な毎日だった。
だから数年前、シルフィリアとアリエスに再会できた時はもう死ぬほど嬉しかった。
なんだかエーフェの最後の戦争が蘇ってきたみたいで・・・・
それに・・・・・
久々に裏の自分を解き放つことができる。
“世界を終りに導く者(マインド オブ カタストロフィー)”
それが自分の二つ名だ。
誰が付けたか知らないが酷いだと思う。
ってかこんな名前が付く程酷いことをした覚えはない。
塔へと続く階段を昇り切り、塔の上から地平線を見つめる。
敵は7500人・・・。やっぱりというか予想通りというか・・
やっぱ異常なまでに多い。
―ん?―
ここでジュリオがある事に気が付いた。
敵の旗印なのだが・・・・赤い薔薇の紋章。
「まぁあ!パトリックちゃんの部隊じゃない!!」
少し昔に戦ったことのある部隊。ちょっとテンションが上がった。
さて・・・・・
ポケットからロケット花火を取り出してそれを空に打ち上げる。
その後すぐに東の空に白い花火が上がった。
「いくわよ〜!!!」
後ろの兵士が雄叫びをあげる。
何処となくやる気がない気がするがおそらく気のせいだろう。
「あんた達は城壁の上から弓矢で攻撃しなさい。戦が嫌になるほどに・・ね・・。」
兵士が敬礼して弓を手に城壁に昇って行く。
それを見届けてからジュリオはポケットを確認した。
小さなステンレス製の小さな小瓶。中身はしっかりと入っている。
「負ける気はしないわね・・・。」
ジュリオは小さく呟いた。
そのまま城壁の上から飛び降りる。
まるで岩石でも落下したかのような音が響き渡った。
「な!何だ!!」
敵兵士が叫ぶ。
見れば敵兵士全員がジュリオに視線を注いでいた。
「パーティーへようこそ・・・フフッ」
ジュリオがにこやかに笑う。
「な・・・何だ・・あの化け物は!!」
―ムッ―と少しイラついた顔をするジュリオ(上半身にあちらこちらが大きく開き地肌露出しまくりのタイツ、下半身にはボディベイントのように一切合切が浮き出るタイツ状半ズボン着用、足元はピンヒールにハイソックス。頭はオールバックで数条前髪が降りているのはおそらくオシャレのつもりだろう。唇のルージュは薔薇が嫉妬するんじゃないかという程に真っ赤で眼だけが異様にキラキラしている。もちろんマスカラ多様。)は大声で言い返した。
「ちょっと!!化け物とは何よ!!ジュリエットちゃんとお呼びなさい!!」
「だ!黙れ!!殺せ!!」
敵はひるみながらも武器を手に襲いかかってきた。
そうそう・・そうでなくては・・・
ジュリオはゴソゴソとタイツの胸元をまさぐり・・・・
「でぇりゃゃゃあぁぁあぁ!!!!」
絶対乙女の喉から出ることが無い野太い声で一気にそれを振り払った。兵士が宙を舞う。
「ど!どこから出した!!」
兵士の一人が大声で叫ぶ。ジュリオの手には明らかに身長よりも大きい超巨大な剣が握られていたのだ。
グランドスラム・・・シルフィリアが使っていたアレである。
「ウフッ!!股間から!!」
気持ちが悪いことこの上ないセクシーなポーズでジュリオが甘えたポーズをする。
再び、グランドスラムを一振り・・・・
再び敵が宙を舞った。
しばらく戦っていなかったが、腕は堕ちていないようだった。
剣に火の魔術を纏わせる。ジュリオのスートは火だ。
「黒魔一閃!!」
熱せられ、斬れ味を増した剣は容赦なく敵の装甲を切り裂く。
「あん!」
後ろから斬りかかってきた兵士に背中を切られかけ、思わず喘ぎ声をあげた。
しばらくそんな危うい戦闘が続く。ジュリオはそれなりに撃破数を重ねていた。城壁の上の兵士も一生懸命攻撃をしているようだが、相手の数が7500ともなると流石に数を減らすのは骨が折れる。
それにジュリオの完璧筋肉ボディにも流石に刀傷が刻みつけられていた。
「仕方ないわね・・・・」
ジュリオはしばし俯いて・・・
グランドスラムを捨てた。
そして・・・
自分を取り囲む兵士達に向かって強烈な投げキッスの嵐を浴びせる。
囲んでいた男達が(中には女性兵もいるが言うに及ばず、こちらも)ひるんだ。
その瞬間にジュリオは腰のボトルを掴み栓を開ける。
辺りに豊潤な香りが充満した。
「これは・・・」
兵士の一人が叫ぶ。
「コーヒー?」
「正解。」
ジュリオがウィンクする。悪寒が走った。
「ウチの店のバーテンダー。シンクちゃん特製のブレンドコーヒーよ(はぁと)。」
適当な解説をしてからジュリオはそれを・・・
一気に飲み干す。
同時に辺りに魔力が充満し始めた。
水色の魔力は渦を巻いてジュリオを包み込む。
「まさかこれは・・・」
誰かが呟いた・
「解放魔法!?」




敵は作戦本部を城から500mの地点に設置していた。
 設置された簡易式の水晶板。そこにゴーレムを使って魔法で映し出される前線での戦闘の様子。
それを見つめつつ、南勢総司令のパトリックは頬をひくつかせていた。
「まさか・・・そんな・・・・」
何度も自分に自問自答する。
先刻、光に包みこまれと思ったら全く別の場所に居た。
いや、それはまあいい・・・。
確かに驚きはしたが、おそらく数百人規模の魔道士を使って強制的に空間転移でもしたのだろう。最近魔道学会の一部がそのようなことを研究しているという話も聞いていたし・・・
だが、そこにアイツがいることなどまったく予想だにしなかった。かつて、自分の隊を壊滅的たった一人で壊滅させた悪夢。
“ユリウス・カエサル”が何でこんな所に・・・・



「こ!攻撃!!攻撃だ!!」
兵士が叫ぶと同時に後ろに控えていた魔法兵士が一気に魔法での攻撃を浴びせる。一世に浴びせられたとてつもない量の魔法矢にとんでもない量の土煙が舞い上がる。
先程の螺旋状に渦を巻いていた光はいつの間にか消えていた。
誰もが敵の死を悟った。
「や・・・やったのか?」
兵士の一人が呟く。

「うわっ!!!!」

目がつぶれてしまうのではないかという程の閃光が辺りに充満した。一気に土煙が吹き飛ぶ。
「なんだ!?何が起こってる!!?」
眩い桃色の魔法光は明らかに先程までとは異なる人物の光だった。まさか・・・・・
「解放に成功してしまったのか!?」
兵士の顔が青ざめた。
―解放魔法―
それは古代から強大な力を鎮める目的で考えられてきた拘束魔法の一種である。自身の強力すぎる力を封印する為に自分で・・あるいは他人によって自身を拘束する。
そして、あるキーワードでそれを開放した時・・・・
その者は元来持ち合わせている強大すぎる力を意のままに操ることができる。
狼男が月を見て力を取り戻すように・・・吸血鬼が血を吸って力を増すように・・・・
あれ以上の強さを持つ敵。
ぞっとした。
奴の本来の姿は何であろう。やはり狼男?いや、もしかしたら旧世代のバージェストか?
どちらにしろロクなものであるはずが無い。
光が少しずつ晴れていく。
中には人影が垣間見えた。
人影が揺れる。
―生きてる!?―
兵士達が一斉に武器を構えた。
<世界を終りに導く者(マインド オブ カタストロフィー)>
それは―

「・・・・・・!!!!!!!!!!!!」

兵士全員の顎がカクンッと落ちた。
いや、ある意味予想通りだったのだ。
中から出て来たのは間違いなく・・・・
「ば!!!化け物!!」
だったのだ。
「薔薇の命は 清く気高く!!」
野獣の咆哮のような声が響き渡る。
「火と燃えるような華麗な宿命!!」
爆音のような声に周囲の空気がビリビリと振動する。
「深紅の 心の花よ La Vie En Rose〜♪♪」
歌ってる・・・らしい・・。
光の中から姿を現したのもの。
先程にも勝るボディビルダーが嫉妬する程の・・見ていてどうしようもなく暑苦しくなる量の筋肉。しかし、日焼けはしておらず、肌は小麦色というよりも小麦粉色。
その肉体がポージングしている。
もう賞が取れそうなぐらい完璧な「フロントラットスプレッド」というボディビルにおける両腕を抱え込むようにしたポーズ。
衣装は・・先程と変わらない。
しかし、明らかに顔つきが違った。
 髭面はより濃く・・・・
 ルージュは黒真珠が嫉妬しそうなぐらい見事なまでのテッカテカの黒。
 切れ長の眼は神様は何でこいつにこのパーツを付けちゃったんだろうというぐらい気色悪さを数倍増する機能を存分に果たしている。
 これだけでも、見た者の脳を直撃する衝撃はすさまじいのだが・・
 最も恐ろしいのは・・・・
「こっ!こいつ!!・・・まさか・・・エルフか!?」
うわ言のような口調で兵士が呟いた。
そう。
それはエルフだった。長い耳を持つエルフなのである。
何と言うか・・その・・・筋肉やその顔の衝撃と比べるとあまり目立たなかったりするが、その顔の両端についているピアスを二重につけた耳は間違いなく尖っている。
なんかおしゃれのつもりで刺青が施されているが、気色悪さを助長する機能しか果たしていない。
「まあっ!!」
ぐりんとポーズを変えて今度は「サイドチェスト」だ。<世界を終りに導く者(マインド オブ カタストロフィー)>は言う。
「かわいいボウヤ達!」
「・・・・・・」
兵士達は恐怖と混乱で声すら出ない。
「んもう!んもう!!なんてかわいいの!!ああ〜・・抱きしめたい!!頬ずりしたい!!吾輩!!たまらない!!」
一人称が「私」から「吾輩」に変わっていた。
「サイドドライセップス」で体をくねらせ、まるで見ろ!この筋肉!!といわんばかりの「ダブルバイセップス・フロント」。
ゆっくりと兵士達に近づいてくる<世界を終りに導く者(マインド オブ カタストロフィー)>。
「あ・・ああ・・ああああああああ」
兵士は震えながらも武器を構えた。
「こう・・攻撃!!攻撃しろ!!殺せ!!いや、消せ!!!」
良く考えると何をされたわけでもないのでこの言葉は結構酷かったりする。だが・・・・なんというか・・・・これに迫られたら大抵の人間は同じ発想にいきつくだろう。
今スグ自分の前から消えて欲しい・・と・・・
同時に戦艦すら沈むのではないかという程の量の魔法攻撃と矢羽が彼?を襲った。
再び、撒き上がる土煙・・だが・・・
「ああん!!」
その向こうから聞こえてくるのは悲鳴では無い・・。
気持ちよさそうな・・喘ぎ声・・・・
「魔力壁だと!?小癪な!!!攻撃を当て続けろ!!奴の魔力が尽きるまで!!」
「ああん!!ああっ!!イイ!!ああああん!!!」
もうホントに城一つ破壊できるのではないかという程の破壊力がそこに注ぎ込まれた。
だが―
「あ・・・あ・・・ああ・・・」
兵士が悲鳴を上げる
「ふう・・なんて激しいアプローチなの・・・」
サイドドライセップスの状態で唇に小指を当て、恍惚の表情で兵士達を見つめる<世界を終りに導く者(マインド オブ カタストロフィー)>
「吾輩・・・軽くイッちゃったわ(はぁと)」
「あ・・・・」
その場にへたり込んでしまう兵士達。それは魔力が尽きたからなのか・・それとも別の理由なのか・・・・両方か・・・・
そして。
「ああああああああああああああ!!!!」
「緊張してるのね・・・すぐにホグしてあげるわ。―フフフ・・・」
内股で近づいてきたマッチョエルフは、腰が抜けて立てないというのにそれでも這ってでもその場から逃げだそうとする兵士を捕まえて・・・がっちりと抱きしめた。
筋肉を見せる為に塗られたオイルと汗でべっちょりと濡れた肌が兵士にスキンシップを強要する。
これだけでもその兵士は失神寸前だと言うのに・・・
「は!離せ!!化け物!!」
後ろから数人の兵士が剣で斬りつける。だが、マッチョの筋肉に触れる数ミリ手前で止まってしまった。
力場防御。・・またの名を魔法壁とも言う。
自分のスートを使って自身を守護する結界を張り続ける魔法。
達人ともなれば、意識せずにこれを発動し、数千年、研鑽を積んだエルフともなれば、その高度はミスリルを超えることすらあるという。
「せっかちね・・君達も後でハグしてあげるから・・・ちゃんと待つのよ?」
ニッコリと笑いながら言うマッチョエルフ。
兵士達の背筋が凍った。
そしてうっとりとした瞳で腕の中の兵士を見つめ・・・
むちゅうううううううううううううううううううう!!?
濃厚なキス。
「!・・!!!!!!・・・・!!!!!!!!!!!!!!!!」
瞳を開いてまるで陸に打ち上げられた魚の如く暴れる兵士。
一応、念の為に言っておくと、別に生気を吸い取られてるとかそう言った特殊なことは一切無い。ただただディープキスしてるだけだ。物理的な被害は一切無い。
ただ、舌と唇をからませながらキスしてるだけ・・・いや、「ただ」というのは少々疑問だが・・・
だが・・・
ねっとりとした汗の香りが漂うマッチョの肉体と黒ルージュの口唇。これにディープキスされて平気なのはおそらく同類ぐらいなものだろう。
「・・・・」
力なく垂れる兵士の腕・・・その体は燃えつきたように真っ白だった。一応もう一度言っておくが、ディープキスされただけである。
ぎゅぽんっ!というどう考えてもキスの音じゃねーだろ!!的な音を立てて唇を離すと、御満悦の溜息をマッチョエルフは漏らした。
「うふふ・・・」
でもって振り返った先に居たのは先程斬りかかってきた数人の内にいた一人の女性兵士だった。
「いや・・やめて・・・」
腰が抜け動けない体を両手で抱え込みながらフルフルと涙を流しながら首を振る女性・・・
だが・・・
「あなたもキュートよ・・・?」
迫るマッチョエルフ・・。
その手が女性兵士の両肩をがっちりとロックした。
「いや・・やめて・・初めてなの・・・だから・・・お願い・・・」
「わかったわ・・」
「え?」
「やさしくするわね・・・」
「イヤーーーーーー!!!!!!!」
「ジュテーム・・・・」
そして・・・
哀れにも一人の女性のファーストキスが奪われたのだった。


 

「な・・なんですか・・あれは・・・」
 総司令部のテントで作戦参謀はパトリックに問う。
「あれが・・われらの敵だ・・・」
どっしりとした身構えの初老の将軍・・。パトリックは呟いた。
「エルフ・・なんですよね・・」
「ああ・・・」
「高貴なエルフが・・あんな・・・」
「あんなと言ってもな・・・」
いつになくパトリックは困った様子だった。
「実の処、奴には別に誰かを害そうという気持ちは一切無い。八のポリシーは『愛の配達人』。愛を届けることだけが奴の目的。嘘では無い。奴は本気だ。」
「そ・・それはいいことなのでは・・」
「表面的には・・な・・」
「た!隊長!!アレを!!」と一人の兵士が叫んだ。
「な!ジャック・アニストン副将軍!!」参謀が叫んだ。
「アニストン副将軍なら奴と同じ解放魔法が使える!!勝てますよ!!」参謀が一気に希望に満ちた表情をした。
一方でパトリックは・・「だと・・いいがな・・」と浮かない声を出した。



「ま。アニストン君じゃない!?久しぶり!!」
「やはりお前だったか・・ジュリオ!!」
「久しぶりね・・・私のベーゼが忘れられなかったの?」
もう突っ込む気も起きない。
 「貴様を放置しておくわけにはいかん!!」
 アニストンは大声で言い放った。
 「貴様は他人を恐怖のどん底に叩き落とす!それだけはさせんぞ!!」
「うふふ・・いらっしゃい・・ムチムチに可愛がってあげるわ!」
「ダブルバイセップス・バック」をしながら振り返りつつジュリオはアニストンを見つめる。
「解放!!」
アニストンが叫んだ。
瞬間、アニストンの体が変化していく。灰色の剛毛、獣の耳、牙、爪・・・それは人からは狼男と呼ばれる種族だった。
「ぐおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
突進するアニストン。その爪を使ってジュリオを切り裂こうと腕を掲げる。だが・・・
「ああん!!」
なんとか力場防御を突破したものの、そこで力のほとんどを失い、結局ジュリオの体には薄皮が剥けた程度の傷しか与えられない。
「グァオオォォォオオ!!!」
ならばといわんばかりに今度はジュリオの肩めがけてその牙を突き立てた。だが、それも結局はジュリオの力場に阻まれ、その体に僅かに牙が食い込む程度・・・
いや・・
「ああん!ダメよワンちゃん!!甘噛みは!!!そんなことされたら吾輩・・・ああん!!もっとっ!!!!!」
攻撃しているとさえ認識してもらえていないようだった。
でもって・・・
「もう、甘えんぼさんなんだから!!」
「ギョワワワワワワッワワワッワアアワ!!」
逃げる間もなくがっちりと抱きしめられたアニストンは顔面にキスの雨嵐を受け、そしてトドメといわんばかりのディープキス。
ジュリオが腕を離すとアニンストンはその場に四つ這いにひれ伏した。
「うふふ・・・ボンソワール・・・」
最後の投げキッスが決め手となる。アニストンは真っ白に燃え尽きてその場に倒れこんだ。




唖然とする参謀。そんな・・バカな・・・アニストンは屈強な元傭兵でいくつもの死線を掻い潜ってきたはず・・
そのアニストンが・・・抗うことも出来ず・・一瞬で・・・
「『ラブ・テロリスト』・・それが奴に付いたあだ名だ。」
「はぁ・・・」
「ジュリオの覚醒体・・通称ジュリエット・・・奴は・・」
参謀が息を呑んだ。
「バイセクシャルだ・・・」
「・・・はぁ?」
「そして・・マゾだ・・。」
「・・・・」
「どんな攻撃も快感に変える変態だ。でもって誰彼構わず抱擁とディープキスを迫る博愛主義者だ。うん、うん、愛は素晴らしいな〜」
見たこともないすごいさわやかな笑顔で参謀の両肩を掴み微笑むパトリック。
「彼は善意の塊でな。遠慮する我々にも愛を与えてくれる。素晴らしい・・・実に、素晴らしい・・・」
パイトーンの腕がガタガタ震えだした。目が血走っている。なんかもう・・アブない・・・。
参謀が再び水晶板に視線を戻す。
「俺・・・この戦いが終わったら・・・好きな子に・・告白するんだ・・・」
「・・そっか・・がんばれよ・・」
の「よ」のところで壁を突き破ってきたジュリエットが「ボンソワールに幸あれ」と言って、告白する少年と応援する少年の順にディープキスしてる最中だった。
「15年前にあいつと戦った時なんかさ・・重すぎる奴の愛に耐えきれず、さらに戦いが長引いたこともあって・・・同じ趣味に走る奴らが出てきて・・」
「ひっ!」と参謀が短く悲鳴を上げた。
「奴をこのままにしておいたら世界にハードゲイが萬栄し、肉と汗の花園が広がって行ってしまう!!いやだー!!美少年同士のBLはいいけど!ハードゲイは嫌なんだ!!!」
「しょ!将軍!落ち着いてください!将軍!!」
「なんとかせねば・・・」
「はぁ・・しかし、あれに勝てますか?」
「勝つしかないのだ。我々が生き残るためには・・・耳を貸せ・・」
参謀が耳を差し出す。そして、そこにパトリックから作戦の概要が説明された。
 
 

ジュリオはいちいちポージングを決めながら歩く。目指すのは敵の総司令部。そして、そこに居るパトリックだ。
すべては彼に愛を届けるため
非常に迷惑な話である。
敵のテントが見えかかった時・・・・
パトリックと参謀が動いた。
ジュリエットに向かってとにかく攻撃を浴びせる。
すべては防御力場を剥がすため。
ジュリエットはその度に「ああん!」とか「もっと!!」とか喘ぎ声を上げた。怖い・・怖すぎる・・・同じ人間だと思いたくない・・まあエルフだが・・・
しばらく攻撃を続けるとジュリオの体から薄いピンクの膜みたいなのがガラスのように砕けっ散った。力場防御が破壊されたのだ。
「パトリックさま!!今です!!」
参謀が叫ぶと同時にパトリックが巨大な金棒でジュリエットを殴りつけた。ジュリエットの巨体が宙を舞い、地面に打ち付けられそのまま数十メートル引きずられる。
スペリオル“フォースリング”腕力を数十倍に出来る特殊なスペリオルの賜物だ。
「や・・やったぞ!世界は救われた!!」
喜ぶパトリック。だが・・・・
甘かった。向こうの方で大きな光の柱が見える。
その中には・・無傷のジュリエットが・・・
「バ・・カ・・な・・・」
「どうやら力場防御とか関係ないぐらい頑丈なようですね・・」
あきらめて落ち着いて解説する参謀。
そして・・
「な!なんだと!!」
恐怖に震えるパトリックの声・・・。
ジュリエットが分身していた。10人・いや・・10体程に・・・
「ジュテーム!!」
10体のマッチョが一斉にポーズを取る。
「そ!そんなのありかっ!!」
「愛の前に不可能なことなんて何もないわっ!!」
「嫌だ!凄く良いこと言ってるけどイヤだー!!!」
パトリックはもう一度連携すべく参謀を探した。
参謀は・・・すでにジュリエットによって真っ白に燃え尽きていた。
万策尽きた。もう勝てる見込みはない・・・。
故に―
「いやあああああああああああああっ!!!」
パトリックが叫ぶ。
じょりじょりの髭面に頬擦りされ、汗臭い筋肉に揉みくちゃにされるパトリック。筋肉が作り出す小山からバタバタと動いていた彼の腕は・・・しだいに力を失って垂れ下った。
「うふふ・・ジュテーム。」
最後の相手とあって、パトリックへの愛は止まらない。真っ白になった彼に対してはそれからもしばらくディープキスが繰り返された。


「なんと・・・おそろしい・・・」


駆け付けたカーリアンはたった一言だけそう呟いた。
「あら?あなた可愛い!!」
―ひっ!―
気付かれたカーリアンが小さな悲鳴を上げる。
「ジュテーム!!」
「イヤァァアァァァアァァァァァ!!!!!!!!!!!!」
カーリアンはその後、自分がこんなに早く走れるんだと実感することとなったのである。



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